あらすじ
雨は、今日も降っている。
長く降り続く雨によって、日本の多くが水に沈んだ世界。
それでも人々は働き、学校へ通い、恋をして、家族と暮らしている。テレビでは今日も「カエル天気予報」が流れていた。
札幌の山側にある療養所で暮らす八十歳の「私」も、その一人だった。
八十一歳になっても忙しく動き回る妻。
百二歳になっても生きている母。
そして、ときどき療養所へ遊びに来る十三歳のひ孫、莉莉(りーりー)。
莉莉には、雨や雷をほんの少し鎮める「カエル術」が使える。
本人にとっては、たいした力ではない。
雨も、水没した街も、カエル術も、生まれたときからそこにある日常だから。
ただ一人、「私」を除いて。
「私」には、この世界とは違う世界を生きた記憶がある。
それでも、この世界は悪くないと思っていた。
家族がいる。
莉莉がいる。
雨くらい降っていたっていい。
――だから今度こそ、余計なことはしない方がいい。
そう思っていた。
テレビの中のカエルが、見覚えのある赤色に変わるまでは。