あらすじ
かつて大陸の大半を支配した巨大帝国が崩壊してから六十年。
公爵、侯爵、伯爵、男爵――旧帝国の爵位だけが残り、各地の領主や都市、傭兵団が互いに領地を奪い合う群雄割拠の時代。
そんな世界の片隅で、二十一歳のセレナ・アルヴェインは、父の死によって小さな男爵領を継ぐことになった。
人口はわずか数千。常備兵も数十人。
兵を失えば畑を耕す者が減り、村が焼かれれば税収が消え、橋一本が落ちれば軍も商人も動けなくなる。
だからセレナは、戦場での華々しい勝利を求めない。
敵より先に情報を集め、領内の道を整え、食料を蓄え、地図を作り、斥候を送り、戦うべき場所と戦わない場所を選ぶ。
一人の兵を生かすことが、一つの畑を守る。
一つの村を守ることが、次の冬を越える力になる。
やがて彼女は、傭兵部隊を失い行き場をなくしていた元斥候ローヴェルを直属の斥候として迎え、領境の森、街道、市場、盗賊、隣国の動きまで、自らの「目」として情報を集め始める。
だが、弱小領主に平穏な時代は許されない。
隣領との境界争い、盗賊、商人たちの思惑、飢饉の兆候、領主同士の駆け引き。
そして帝国崩壊後も終わることのない、小さな戦争。
限られた兵、限られた金、限られた食料。
そのすべてを秤にかけながら、若き女領主セレナは決断する。
これは英雄が大軍を率いて天下を取る物語ではない。
小さな領地と、そこで暮らす人々を守るために――
情報と知恵を武器に生き抜く、一人の女領主の物語。