あらすじ
結婚して四年、別居して半年。郊外のアパートで一人暮らしを始めた私は、ベランダに出て中秋の名月を見上げていた。夫との間に決定的な裏切りや激しい喧嘩があったわけではない。ただ、日々の小さなズレが積み重なり、一緒にいることの息苦しさが愛着を上回ってしまっただけだった。そんな折、夫から「そっちに残っている荷物を取りに行きたい」という連絡が入る。やり直すのか、終わらせるのか。返信に迷いながら見上げた月は、ほんの一瞬だけ、水底から見上げるようにその形を奇妙に歪ませた。時が止まったような不思議な静寂の中、私は自分自身の本当の願いに気づく。未練という微かな揺らぎをごくりと飲み込み、私は引き出しの奥に眠っていた緑色の紙を取り出した。