あらすじ
ウチの隣には、自称四百年続いているという銭湯がある。
壁に大きな富士山が描かれた、いかにも銭湯だという佇まいだが、サウナまで備えているのは涙ぐましい企業努力というものだろうか。
ウチにも風呂はあるのだが、小さい頃からその銭湯が好きで、週に一度くらいの頻度で通っていた。
銭湯の主人は少し彫りが深い感じのどこか偏屈というか、頑固そうな古いタイプの初老の男だったが、話してみれば気さくな人で、よくカトちゃんカトちゃんと呼んで懐いていた。
カトちゃんのほうも、こちらのことを気に入ったのか、学校帰りの姿を見つけては、声をかけてくれた。
ある日、学校で習ったばかりの知識を披露したくて、家の前を通りかかった際にカトちゃんの姿を見つけるや
「本能寺の変って知ってる?」
と話しかけた。
庭のイチジクの木を手入れしていたカトちゃんは、何でもないことのように答えた。
「ああ、知っとるよ」
なんだ、残念、とつぶやく。
しかしカトちゃんの言葉はそこでは終わらなかった。
「うちのご先祖が、その場に居合わせたらしいからな」
「え!?」
こうして、カトちゃんとカトちゃんのご先祖の足跡を探る、本当かどうかも怪しい時間旅行が始まるのだった。