あらすじ
「冷え切ったお前には、その氷のように冷たい汁こそがお似合いだ」
舞踏会の壇上、第一王子から胸元に投げつけられたのは、脂の浮いた冷製コンソメスープだった。
無実の罪を着せられ、悪役令嬢として北の最果てにある極寒の国境砦へと追放されたエルセリア。
だが彼女の前世は、油煙の立ち込める厨房で寸胴鍋と格闘し続けた生粋のラーメン職人だった。
「食べ物を粗末にする人間に、生きる資格なんてない」
氷点下の砦で目にしたのは、凍りついた硬いパンをかじり、生きる気力を失った兵士たちの姿。
厨房に放置されていた魔猪の骨を叩き割り、血抜きを重ねて強火で煮出すこと半日。
木灰の上澄み水で打った黄色い縮れ麺に、分厚いラードの膜が熱を閉じ込めた濃厚白湯スープが注がれる。
「……なんだこの熱い汁は!? 体の芯から、汗が噴き出して止まらない!」
たった一杯の熱気と脂の暴力が、頑固な守備隊長と凍える兵士たちの胃袋を完全に掌握する。
やがて砦は「世界一温かい至福の麺が食える聖地」へと変貌し、噂を聞きつけた冒険者や商隊で連日大行列ができる一大拠点へ急成長。
一方で、大寒波が襲来した王都。
冷やす手間の贅沢さに溺れ、温かなスープの炊き方すら忘れた貴族たちは、兵站の凍結と食糧危機に震え上がっていた。
飢えと寒さに耐えかねた第一王子が国境砦に泣きついてきたとき、エルセリアは湯気の向こうから極上の笑顔で告げる。