あらすじ
手作りのバースデーケーキを抱え、私は六歳になった息子、神谷湊の前にしゃがみ込んだ。
ろうそくの火を吹き消したばかりの湊の頭を撫で、今年は何が欲しいのかと聞いた。おもちゃでも旅行でもなく、湊は妙に落ち着いた顔で私を見つめた。
「ママ。今年の誕生日のお願いなんだけど、パパと離婚してほしい。そうしたら、静香さんに新しいママになってもらえるから」
伸ばしていた手が、そのまま宙で止まった。
結婚して六年。怜司にとって「ふさわしい妻」でいるために、私は舞台を降り、レッスンをやめ、SNSのアカウントまで閉じた。食べるものも着るものも、少しずつ神谷家が好むものへ変えていった。
それでも、少なくとも息子には必要とされていると思っていた。
けれど、その瞬間に分かった。彼らが言う「品のある子に育てる」という教育の中で、湊はいつの間にか、高級料理も分からず、洗練されてもいない母親を恥ずかしいと思うようになっていた。
小さく笑い、バッグから前もって用意していた離婚関係の書類を取り出した。
「いいよ。ママ、そのお願いを叶えてあげる」