あらすじ
北海道・小樽の老舗旅館に生まれた中畑颯太は、東京のホテル専門学校に進む。人の輪に入れず、教室の隅で息を潜めるだけの日々。そんな彼が唯一、目を離せなかったのが月野葵生だった。誰よりも明るく、誰よりも完璧な笑顔。けれど颯太は、その膝の上で震える指先に気づいてしまう。
彼女には、誰にも言えない過去があった。
やがて距離を縮めた二人は、それぞれホテルマンとブライダルプランナーとして働き始める。誰かの「最高の一日」を演出する彼女と、傷ついた人の逃げ場でありたいと願う彼。同じ街で、同じ仕事をしているはずなのに、言葉は少しずつすれ違っていく。
そして、故郷の旅館に買収の話が持ち上がる。
東京と小樽。四年間と、その先の二年間。何ひとつ言えないまま、二人はそれぞれの場所で戦うことになる。
この物語は、さだまさしさんの楽曲「東京」から受けた印象をもとに、羽田空港での別れの場面から書き始めました。三十年以上前に途中で止まっていた原稿を書き上げたものです。楽曲そのものとは無関係の、独立した創作です。