あらすじ
中学二年生の秋葉羅美には、ほとんど毎日のように見舞っている祖母・ハツネがいる。末期癌を患い、認知症によって昨日の出来事さえ忘れてしまう祖母。しかし彼女には、なぜか六十年以上前の「ある出来事」だけは鮮明に残っていた。
戦争末期の東京。
美咲寺。
耳の千切れた犬・ホウイチ。
そして、鼠坂と名乗る男が率いた謎の五人組――。
何度聞いても祖母の話は同じところで途切れる。そんなある日、羅美は祖母の部屋から古びた日記と謎めいた手記を発見する。そこに記されていたのは、どう考えても説明のつかない記録だった。
祖母の話は、本当に認知症が生み出した妄想なのか。真相を確かめるため美咲寺を訪れた羅美は、風変わりな青年僧・灰笠芳一と出会う。そして寺の奥には、都市伝説でしかないはずの「ホウイチ」の影があった。
やがて浮上する一冊の奇書――『卡瓦拉主義』。カバラ、ノタリコン、ゲマトリア、文字と数字の照応。そして奇妙な「名前」。羅美という名前そのものにも、祖母が六十年以上抱え続けてきた秘密にも、まだ彼女の知らない意味が隠されていた。
忘れてゆく老婆と、忘れられた過去を追う少女。時を隔てた二つの時代をつなぐ暗号が解かれたとき、羅美は「生きること」と「死ぬこと」の境界に触れることになる。
祖母が語り続けた昔話は、幻想だったのか。それとも――忘れてはいけない記憶だったのか。カバラ神秘思想と暗号、戦争の記憶をめぐる、世代横断型オカルト・ミステリー。