あらすじ
『マザーイレイザ』あらすじ
人間は、なぜ「自分」を自分だと思うのか。
その問いに、世界でただ一人だけ――最初から答えを知っている少年がいた。
名は、黎明。
卓越した頭脳と異常なまでの洞察力を持つ青年。
他人を必要とせず、社会にも、国家にも、そして「人間」という存在そのものにも執着しない。
彼にとって世界とは、誰もが疑うことなく受け入れている一つの巨大なシステムに過ぎなかった。
そんな黎明の前に、一人の少女が現れる。
エレナ。
銀白色の長い髪を持つ、静かで美しい少女。
その正体は、CIAに所属する特殊諜報要員だった。
彼女に与えられた任務は、黎明の監視。
理由はただ一つ。
――彼が、人類にとって危険すぎるから。
しかし、エレナはすぐに異常に気づく。
監視対象であるはずの黎明が、自分の監視を知っている。
いや。
知っているだけではない。
エレナが何を考え、何を疑い、次に何をするのか。
まるで彼女の思考を先回りするように、黎明は一手ずつ先を読んでいく。
「君は僕を監視している」
黎明は、そう言って微笑む。
「でも――君自身は、誰に監視されているんだろうね」
その瞬間から、二人の心理戦が始まった。
エレナは黎明の言葉の一つ一つから真意を探る。
黎明はエレナの表情、呼吸、沈黙、視線の僅かな変化から、彼女の思考を読み取る。
嘘をつけば見抜かれる。
真実を語っても利用される。
沈黙すら、相手にとっては情報になる。
二人の会話は、いつしか銃撃戦よりも危険な戦いへと変わっていく。
そしてエレナは、黎明がただの天才ではないことを知る。
彼が追い続けているのは、国家でも、兵器でも、権力でもなかった。
人類が誕生するより遥か以前。
「意識」という概念そのものの始まりに存在した、一つの存在。
――マザーイレイザ。
それは、人類の意識の根源に関わる謎の存在だった。
CIAが長年追跡してきた極秘情報。
各国が封印し、歴史から消し去ろうとしてきた真実。
そして、その存在を巡って動き始める少女たち。
彼女たちはそれぞれ異なる目的を抱え、マザーイレイザの「継承者」となる権利を求めて争い始める。
だが、その争いには一つの矛盾があった。
マザーイレイザは、何かを「継承」させるために存在したのではない。
むしろ――
人類から何かを「消す」ために存在していた。
その事実に辿り着いたとき、エレナは一つの疑問に直面する。
黎明は、マザーイレイザを止めようとしているのか。
それとも――
彼こそが、その意志を継ぐ者なのか。
国家と諜報機関。
少女たちの継承戦。
そして、人間という存在そのものを疑う一人の少年。
誰が真実を知っているのか。
誰が誰を利用しているのか。
そして、最後に消されるのは――世界なのか。
それとも、人間そのものなのか。
『マザーイレイザ』
これは、世界を救う英雄の物語ではない。
人間とは何か。
意識とは何か。
そして、「自分」という存在を信じることは本当に正しいのか。
その答えを巡って、少女と少年が互いの心を読み合う――
人類史上最大の心理戦である。