あらすじ
「技術はあるが、見るべきものがない」。
十七歳で美術院に落ちたリーザは絵筆を折り、五年間、顔料商会の帳簿係として生きてきた。
借金の取り立てで赴いたのは、運河の街アルベーラの壁画工房。そこには、五年間自分の絵を描けない若き親方ヴィートをはじめ、癖の強い天才たちが集まっていた。
聖堂壁画の納期は四か月。ところが、使われるはずだった最高級の青、ラピスラズリ三箱が安い石へすり替えられている。
誰が、いつ、何のために青を盗んだのか。
リーザは色と材料を見る目、帳簿に残された数字、壁の湿りを手掛かりに、工房で起きる謎を解いていく。そのたび、描くことをやめたはずの手が、帳簿の余白へ再び線を引き始める。そして、彼女を一度も褒めないヴィートだけが、その捨てられた絵を黙って拾っていた。
描きたいという衝動は、才能の有無より先にある。
これは名前のなかった線を自分のものとして取り戻し、天才たちと一枚の壁画を完成させる物語。