あらすじ
「ヴィオレット、お前との婚約を破棄する。お前は夢と現の区別もつかぬ気狂い令嬢だ!」
煌びやかな夜会で、王太子ルカスの声が響いた。壇上でそれを受け止めるヴィオレット・銀鏡の中身は、前世で夢日記アプリを開発し、過労死した現代日本のIT社畜。
『銀鏡の巫女』のギフト――眠る間に見る未来の断片。周囲は「予言」と嗤うが、彼女に言わせればこれは確定した未来の“ログ”。バグ報告書のように正確な警告を、彼女は幾度も提出してきた。だが決裁者はいつも聞く耳を持たぬ上司――王太子だった。
「そうですか」
取り乱すことも縋ることもなく、彼女は婚約破棄も公爵位の継承権もあっさり放棄する。聞かない相手に労力を割くのは工数の無駄。これは負け惜しみではない。損切り撤退だ。
三日後、王都を『竜潮』が襲うことも知らずに勝ち誇る者たちを置いて、彼女は辺境の『鏡塔』へ発つ。だが辺境の民に罪はない。手鏡の裏に殲滅の布陣を刻み、彼女は無骨な竜人将軍ガイゼルの元へ向かう――。
二十年、誰も信じなかった予言。ただ一人、記録し続けた侍女ロッタ。前世から凪いでいた心が、初めて揺れる温かな未来のログとは。
嗤われた令嬢の予言は、一度も外れない。淡々痛快、損切り令嬢の再出発物語。