あらすじ
物語はテオとリリーのもとへ戻る。ある朝、リリーのもとにジャスミン王女(砂漠の国)から緊急の手紙が届く。以前分けた水汲み上げ技術のおかげで支えられていた国が、季節外れの砂嵐で装置の部品を損傷し、貯水はあと十日しか持たないという。隊商では通常二週間かかる道のりで、間に合わない。国王や伯爵、使者ハキームが集まって協議するが、早馬の中継など従来の手段では解決策が見つからず、重い沈黙が謁見の間を包む。
作業場に戻ったテオは、軽量な荷車や風の力を借りた推進装置など現実的な代案を考えるが、どれも決定打に欠ける。彼の視線は、宮廷に招かれた最初の夜に描いた、あの鉄道のスケッチが眠る引き出しへと向かう。しかし、これほど大きな発明がこの世界に与える影響への恐れ、そして自分の秘密が露見する不安から、テオは踏み出せずにいた。
夜、眠れずに訪ねてきたリリーが「何もできない自分」への悔しさを吐露する。その姿に心を動かされたテオは、ついに引き出しからスケッチを取り出し、リリーに見せる。「僕の前の世界には、こういう乗り物があった」――前世の記憶の存在を初めて誰かに明かし、「鉄道」という言葉を口にする。リリーはその不安を受け止め、「一人で抱え込まないで、私も一緒に考える」と支える。「明日、フィッツジェラルド伯爵に相談してみましょう」というリリーの言葉に、テオは決意を固める。物語のタイトルにもなっている「鉄道」が、初めて言葉として語られた瞬間だった。