あらすじ
「毒見なんて、口に入れて飲み込むだけだろう」
夜会の真ん中で、王太子オルテンスはセリアとの婚約を破棄し、ついでに十年務めた毒見役の任も解いた。代わりを買って出たのは、殿下の想い人ネリー。
「私、平気です。怖くないですから」
セリアは何も言い返さず、職務規定どおりに引き継ぎ書を作った。四十二枚。
毒見役は、毒を飲む仕事ではない。十歳から十年かけて身体に耐性を作り、舌一枚で毒を見分けられるようにする仕事だ。その代償に、セリアは甘いも塩辛いも分からなくなっている。
最後の一枚には、こう書いた。『引き継ぎ不能事項』——と。
殿下はその四十二枚を、目の前で裂いた。
三日後、王太子の皿に毒が入る。
規定どおりに書類を置いていっただけの令嬢と、十年ぶりのひと口の話。