あらすじ
「君の編む理は、あまりにも醜悪だ」
争いのない世界を求め、あらゆる衝撃を受け流す『絶対の壁』を打ったからくり職人・モーク。けれど、美しい秩序と階級を重んじる中央の権威にとって、その発想は「這い上がろうとする者の卑しい執念」でしかなかった。
無能の烙印を押され、一文無しで最果ての雪原へ追放されたモーク。 当の本人は、息の詰まる鳥籠からようやく出られたと、むしろ肩の力を抜いていた。
行き着いたのは、誰にも使われなくなった古い砦。
すきま風を止めるために壁を直す。 凍えないよう、大地の底から熱を借りる。 空いた土地には種をまき、腹が減れば鍋を火にかける。
モークにとっては、それだけのことだった。 誰も傷つかず、腹を空かせず、手足を伸ばして眠れる場所を作りたい。ただ、そのために鉄を打つ。
ところが、その泥臭いからくりは、中央の常識と妙に相性が悪かった。
首を取りに来た最強の武人。 儲け話を嗅ぎつけた商人。 大地の異変を追う星読み。 言葉で万物を縛る弁論家。 そして最後には、モークを追放した白亜の権威まで。
砦を壊すつもりだった者も、利用するつもりだった者も、理屈を正すつもりだった者も。 生きた鉄の壁に鼻っ柱をいなされ、焼きたてのパンと熱い汁を前にすると、どうにも調子が狂ってしまう。
気づけば畑には人が増え、鍋は大きくなり、歯車を磨く手まで足りなくなっていく。
武器を捨てた職人が、ただ温かな飯と風の入らない寝床を求めた先で、癖の強い連中とひとつ屋根の下に暮らしていく。 最果て発、泥と鉄と湯気まみれの、からくりスローライフ。