あらすじ
一卵性の双子として生まれた妹・栞と姉・葵。中学卒業の春、母の勧めで受けた歯科矯正が二人の運命を大きく狂わせます。非抜歯を強要する杜撰な歯科医の治療を受けた栞は、八年間に及ぶ激痛の末に重度の歯根吸収を引き起こし、前歯四本をすべて失って部分入れ歯生活へと突き落とされます。一方、その誘いを頑なに拒んだ葵の口元には、かつての歯並びがそのまま残されていました。
二十五歳を迎えたある日、葵は専門医のもとで正しい抜歯矯正を始めることを決意します。母のトラウマを刺激するその決断に栞は激しい動揺と黒い嫉妬を覚えますが、葵は栞の痛みと傷跡を深く受け止め、共に歩む道を選びます。そして二年半後、葵は完璧で美しい歯並びを手に入れます。
夜の洗面所で自分の入れ歯を外し、前歯のない姿に絶望しながらも孤独と戦う栞。しかし、双子である葵の口元を見つめるとき、そこには「もし自分が装置をつけていなかったら、このままの美しい歯並びで大人になっていたはずの未来」がそのまま残されていました。
完璧な美しさを手に入れた姉と、前歯を失い入れ歯と生きる妹。二人の口元が辿った歴史や形は全く違います。しかし、互いの光と影のすべてを隠さずに見せ合い、傷を受け入れ合ったことで、そこには嫉妬も引け目も消え去っていきます。
「もしも」の過去を姉の歯に見出しながらも、二人は互いを受け入れ、それぞれの笑顔を胸に新しい明日の光の中へとしっかりと歩み出していくのでした。