あらすじ
地獄で罪を償った者。
天へ昇るには、まだ心残りのある者。
志半ばで命を終えた者。
そんな魂が、幽世の片隅で目にする巨大な遊郭――朧屋。
楼主を務めるのは、生前、吉原にその名を轟かせた伝説の花魁・朧。
彼女自身もまた、死してなお一つだけ、捨てられない無念を抱えていた。
「わっちは天へはゆきませぬ」
閻魔の裁きを退け、朧が幽世に築いたのは、願いを叶える場所ではない。
失った人生を取り戻す場所でもない。
ただ――
生きているうちに終えられなかったことを、終えるまで続けられる場所。
一番になれなかった遊女は、一番を目指す。
完成を見られなかった職人は、最後の仕事を仕上げる。
伝えられなかった言葉がある者は、その相手が訪れる日を待つ。
三百年。
人が来ては去り、建てては継ぎ足し、時代の違う技術と文化が入り混じり、朧屋はいつしか城のように巨大になった。
そしてある日。
三百年に及ぶ地獄の刑を終えた一人の女が、その門前へ辿り着く。
かつて朧を慕い、
朧を妬み、
そして――朧を殺した女。
名を、芥。
生前は千代と呼ばれていた。
これは地獄から救われる物語ではない。
罪はすでに裁かれた。
刑もすでに終わった。
それでも残ってしまったものを、
「もう、置いていってもいい」
と思える日までの物語。
幽世遊郭・朧屋
――人生の続きを、ここで終えておゆきなんし。