あらすじ
森で降ってきたのは、チェーンソーとごちそうだった。
小料理屋だんないを切り盛りする彩乃は、元シェフの父をもてなそうと沢へ山菜を摘みに出かけた。すると崖の上から「あぶなーい!」の声とともに、木こりの男とチェーンソーが降ってくる。詫びる男とはそれきりだと思っていたが、父が来るはずだった日に店を訪れたのは、あの日崖から落ちてきた男・航だった。燗が定番の銘酒「黒帯」を、彩乃はあえて冷やのまま勧める。その芯の通った振る舞いに航が惹かれ始めた頃、店の常連・瑠璃の無邪気な一言が二人の間に割り込んでくる。そして出されたのは、あの沢で摘んだワサビの葉を使ったジェノベーゼパスタと、彩乃が探し出した貴重な一本を合わせた、日本酒とパスタという思いがけないマリアージュ。かつて味の世界から遠ざかっていた航の舌が、久しぶりに震えた夜の物語。