あらすじ
大正十年。
日本は未曾有の繁栄のただ中にあった。
明治維新によって生まれた立憲君主国家・大日本帝国は、日本列島と竜宮諸島、蓬莱諸島、琉球を海路で結ぶ海洋国家として、飛躍的な発展を遂げていた。
竜宮と蓬莱から産出する豊かな資源と、近代工業力を背景に、東洋有数の大国へと成長した日本。その首都である帝都東京は、今や「東洋の巴里」と謳われる華やかさを誇っている。
路面電車が街を縦横に走り、自動車の警笛が賑やかに響く。
人々が行き交う大通りの上空では、巨大な飛行船が青空を悠々と航行していた。
後世に「大正デモクラシーの黄金期」と称されるこの時代、人々は科学と産業がもたらす明るい未来を、疑うことなく信じていた。しかし、その輝かしい繁栄の陰で、世界は静かに歪み始めていた。
欧州大戦。
人類が初めて工業文明の総力を挙げて戦った、未曾有の大戦争。
数千万もの命を奪ったその戦いは、人間の社会だけでなく、世界の霊的な均衡までも根底から揺るがしていた。
戦争終結から三年が経ち、戦いの傷跡も、世界を覆ったスペイン風邪の惨禍も、表向きには過去のものとなりつつある。
だが、ごく一部の者だけは知っていた。
――あの戦争は、地獄の蓋を開けてしまったのだと。
今も世界の何処かの夜の暗がりで、怪異が人を襲う。
それを真正面から認めようとする者は少なく、信じる者はさらに少ない。
光が強くなればなるほど、影もまた深く濃くなる。
これは、史実とはわずかに異なる大正時代。
華やかなりし帝都の裏側で、人知れず怪異と戦い、世界を守り続けた少女たちの物語である。