あらすじ
この世界の魔法には、はっきりした欠陥がある。
同じ術は、二度目から効かなくなる。三度目にはもっと効かない。人々はこれを「摩耗」と呼び、術者の魔力が減るせいだと信じている。だから魔法使いの家は、新しい術を作り続けなければ生き残れない。学院は新術の工場になり、首席は三年で三十の術を作り、そして誰にも言えないまま作れなくなる。
現世で学習と記憶の研究に人生を使った心理学者・桐原湊は、講義の最中に倒れて死に、ミナト・キリハとして異世界の魔法学院に立っていた。
入学試験。全員が同じ火球を撃つ。測定器の光は、後の受験者ほど弱くなる。試験官は「今年は不作だ」と言う。
ミナトには、それが何なのかが一目で分かった。
摩耗しているのは術ではない。見ている側だ。この世界の魔法は魔力で動いていない。予期と結果のズレ、つまり驚きの大きさで動いている。だから見飽きられれば効かなくなる。
魔力ゼロと判定された落ちこぼれは、新しい術をひとつも作らない。
代わりに、驚きの起こし方そのものを設計する。効かなくなった古い術を蘇らせ、同じ術を摩耗させずに撃ち続け、戦う前に相手の予期を作り替える。三十の術を失った首席も、落第寸前の三年生も、記録係の少年も、ミナトの手の中で戦力に変わっていく。
だが、驚きが力になる世界には、それを独占している者がいる。
予言と暦を配る組織・暦院。彼らの予言が外れるのは、無能だからではない。外すために発行しているからだ。
初見の魔法だけで無双する少年と、世界中の予期を握る組織の戦いが始まる。