あらすじ
千歳市での事故から数年。あの日の反省は、一つの結論に辿り着いた。「現場の勝手な裁量が、事故を呼んだ」。国はその教訓のもと、全国に展開する統合最適化モデルに、最も厳格な安全策を組み込む。現場の人間が、いかなる理由があろうとシステムの判断を上書きすることを、法によって不可能にしたのだ。この条項の起草者は、桐生悟その人だった。
豪雪の朝、新潟の山間部で、一人の高齢女性が命を落とす。救急隊も、医療システムも、除雪システムも、交通システムも、それぞれが正しく機能した結果だった。誰も規則を破らなかった。だから、誰も裁かれなかった。
かつて桐生に食ってかかった深瀬結衣は、今や制度に組み込まれた「公認互助拠点」の運営者として、かつての自分と同じことをする者を取り締まる側に立っていた。長谷川重雄と神崎組は、静かに、システムの最適化計算から漏れ落ちていく。
若手職員として桐生の背中を見てきた宮本は、現場の悲鳴と、揺るがない桐生の言葉との間で、ある問いを抱き始める。「安全性そのものが、目的になっていないか」。
そして、宮本が見つけ出したのは、桐生自身が、自分自身を縛るために書いた、たった一つの条文だった。
正しさを積み上げた先にある恐怖。桐生悟という一人の人間の贖罪は、皮肉にも、彼自身が最も憎んだ怪物の、最も完璧なコピーへと結実していく。