あらすじ

六パーセントの泡沫候補が、五割を取って当選した。記録媒体は一致し、検証はすべて正常。ただ一台、投票中に固まった端末だけが、封印されたまま金庫に眠っていた。 人口五万の筑野町で、県内で初めて電子投票による町長選が行われた。紙は一枚もない。九本のUSBメモリを読み込んで、開票は十二分で終わった。 スクリーンに出た数字を、誰も信じなかった。三期十二年の現職でも、改革派の元県職員でもなく、話が長くて演説に十人も来ないリサイクル店主、榊原善一が、票の半分を取っていた。出口調査では七パーセントだった男だ。 再点検しても、一票も違わない。メーカーは「正常」と言う。負けた二つの陣営が最初に口にした言葉は、一方が「もう一度」、もう一方が「無効だ」。 そして本人は、辞退しなかった。 「不正を調べるなら、町長室に入るのが一番早い」 役場の情報政策担当・小田切遥は、投票日の昼、投票中に固まった一台の端末を、たまたま自分の手で封印していた。札の番号、0417。メーカーはそれを回収したがり、上司は渡せと言い、議会は彼女を名指しした。 誰も得をしない当選は、誰を指しているのか。すべてが正常な選挙は、なぜおかしいのか。 紙の記録を持たない投票機。誰も数えなかった無効票。八十過ぎのおばあさんが、二回押した指。 壊れた機械は、捨てちゃだめですよ――。 全十三話、約五万字。 ※本作はフィクションです。実在の自治体、企業、製品、人物とは一切関係ありません。電子投票の仕組み(通信を行わない端末、記録媒体の二重保存、封印と搬送、適合確認)は、実際の制度を参考にしていますが、作中の機器・手順・事件はすべて創作です。

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カクヨム
カクヨム2026/09/03
  • 現在の作品無効票0〜電子投票では、数え直す紙が一枚もない〜