あらすじ
「セレスティア、貴様との婚約を破棄する」
第二王子ロデリックに突きつけられた言葉。派手な光魔法を持たぬ私は『落ちこぼれ聖女』と嘲笑され、辺境の迷信と蔑まれた古井戸と共に朽ちるがいいと追放されました。
「……そうですか。では、井戸の管理も、辞めさせていただきます」
誰ひとり、その一言の重さに気づく者はいませんでした。──その井戸が、王国そのものの心臓であったことを。
居場所も役目も婚約者も失い、霧深き古井戸へ身を投げた瞬間、私の中に前世の記憶が蘇ります。現代日本で水を守り続けた、地味な水質管理技師・佐倉聖の記憶が。
そして霧の底で待っていたのは、数百年もの間たった一人でこの井戸を守り、私を待ち続けた水精霊ミオ。
この井戸は、王国全体の水脈を回す巨大な循環装置だった──。
私はもう、聖女を辞めます。私の水は、私を必要としてくれる場所にだけ流れる。指一本汚さずとも、私を捨てた者たちは勝手に詰んでいく。
喉の渇きだけが、失ったものの価値を教えてくれるでしょう。
「聖女はもう辞めます」──追放された地味聖女による、静かで痛快な意趣返し。水質管理技師の仕事に、定年はないようです。