あらすじ
「正しい税額」だけでは、人は救えない。
納税資金が尽きた顧客を救えなかった税理士・成瀬啓介は、明治八年によく似た並行世界で、県の地租改正掛を手伝う青年・桐生算之助として目を覚ます。
病み上がりの初仕事は、寡婦の田を公売にかける予告書への確認印。地価二百円、地租三%で六円、納期は七日後。計算は一銭も狂っていない――狂っているのは元の数字だ。しかもその地価帳には「算」の印。熱で寝込む前の自分が、確かめもせずに押した判だった。
算盤と帳簿で改ざんを突き止めても、正した税額を村は払えない。真相を記した「二冊目の帳簿」は父の罪へつながり、算之助は借り物の息子の記憶で、その父を問い詰めることになる。
税額、納期、家族、村、そして国の財政。魔法も剣もない世界で、転生税理士は数字の向こうの人々を救うため、一度きりの公開吟味に臨む。