あらすじ

披露宴が終わったあと、親族だけが残る控室で、義母の佳代さんが古びた朱塗りの椀を持ってきた。  中には黒糖のような甘い香りに、生姜と何種類かの薬草の匂いが混じった赤褐色の汁が入っていた。久世家では、嫁いできた女性が「嫁入り汁」を飲むのが昔からの習わしなのだという。  私が手を伸ばすより先に、隣にいた直人の顔から笑みが消えた。 「母さん、美月が嫌なら無理に飲ませなくていいだろ」  親戚たちは笑いながら、ただの縁起物だと言った。黒糖と生姜、それに身体にいい薬草が入っているだけだから心配はいらない、と。  せっかくの結婚式で空気を悪くしたくなくて、私は椀を受け取った。ひと口飲むと、強い甘さの奥に、乾いた草の根のような苦みが残った。  椀を戻そうとすると、佳代さんが私を見た。 「美月さん、最後まで飲んでね」  親戚たちの視線が一斉に集まり、私は仕方なく残っていた汁を全部飲み干した。  空になった椀を見た瞬間、佳代さんの肩からふっと力が抜けた。そして背を向ける直前、ほんの一瞬だけ笑ったように見えた。  あとになって知ることになる。  あの汁は、花嫁を祝うためのものではなかった。

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カクヨム
カクヨム2026/09/03
  • 現在の作品結婚式で義母に飲まされたスープは、夫が私を身代わりにして死なせるためのものだった