あらすじ
過労死した原価管理担当者の直人は、空に浮かぶ帝国へ転生し、巨大炉船《灰鐘号》の経理係ケイとして働いていた。
帝都を浮かせる建材「星灰煉瓦」を作る船内では、借金で縛られた三百人の労働者が、名前ではなく番号で呼ばれ、事故で死ねば帳簿からさえ消される。
ある日、炉の事故で仲間が命を落とす。ケイが完成した煉瓦に《真価算定》を使うと、材料費の末尾に奇妙な一行が現れた。
人命 一名。原価算入せず。
さらに煉瓦の中から聞こえてきたのは、死んだ仲間が妹へ宛てた「灰の手紙」だった。
そして、仲間を呑んだ機械の停止時間を「短縮しても支障なし」と算定したのは――前日のケイ自身だった。
剣も、攻撃魔法も、選ばれた勇者の力もない。ケイにあるのは帳簿を読む力だけ。
それでも彼は、採掘夫、炉番、荷役、炊事係たちと、消された者の名前を記すことにした。
世界を一日で変えることはできない。
だが、全員が同じ時刻に手を止めれば、世界を支える巨大な船でさえ動かなくなる。