あらすじ
「女神の膳など、妹の菓子で足りる。あれのほうが甘い」
婚約者の王太子レオポルドは、妹の作った飴を口に入れたまま、そう言った。初穂の荷車は、城の門で追い返したという。
私はジゼル、三十一歳。神饌の料理長を十二年務めている。千年前の女神の約束で、初穂の夜、女神は膳の並んだ所へ降りて食べる。皿は畑ごとに一つ供え、翌年その畑に実るのは、女神がその皿で食べた物の材料だけ。大陸に国は七つ。この国の膳は七十皿で、大陸一だった。だから王家は言う。実りは王城から、と。
「では、今年の神饌は民の竈で七十軒ぶん作ります」
門の外には、国中の村から来た初穂の荷車が並んでいた。私は町の竈を七十軒借り、七十の初穂から一つまみずつ、七十の皿に入れた。広場に皿を並べると、女神は広場に降りた。七十皿を空にして、千年で初めて口を利いた。
「おかわり」
翌朝、国中の村の畑に七十種の芽が出た。王家の畑だけが、一面の砂糖大根だった。
「実りは、献立のとおりに」
王家が一年、甘い物しか食べられなくなるまでの、二日の話。