あらすじ
現代日本で救急医だった瀬戸悠は、死後、剣と魔法の王国で薬師見習いの少年ユウとして生き直していた。
百年に一度の彗星が王都の空を渡った夜、宮廷天文学者が星詠み塔の最上階で変死する。部屋は魂紋結界で封じられ、結界には侵入者の記録がない。死者の右手には黒い竜の鱗。伝声管に残った最期の言葉は「黒竜が来た」。
疑われたのは、前日に天文学者と口論した竜人衛兵ギル。城門で二十人が見ていたアリバイがありながら、王宮は「竜人の呪い」を理由に、夜明けまでの処刑を命じた。
呼び出されたのは、紙の鳥を折りながら死体を眺める変人の痕跡鑑定士リュカ・ヴァレル。
「結界が正しいなら、結界を疑う必要はない。疑うべきは、僕らの物語のほうだ」
眉尻に残った針ほどの傷、麦粒ひとつ分ずれた白い線、竜鱗にあいた四角い穴。死者を診る目を持つ元救急医と、生者の嘘だけを嫌う鑑定士。二人の観察が結びついたとき、完璧な密室と完璧なアリバイは、同じ理由で崩れ始める。
処刑の鐘まで、あと四時間。魔法が嘘をつかない世界で、人間の嘘を解き明かす異世界本格ミステリー。
そして事件が解けたとき、鑑定士はユウが十八年間隠してきた、もう一つの「密室」へ手を伸ばす。