あらすじ

「辺境の村は囮だ。捨てろ。王都の守りが先だ」 魔王軍が国境を越え、王都まで十日。王の使者は村の守備兵三十を引き上げ、村長ハインツ、四十五歳にそう告げた。村人は残せ。魔王軍が村を焼く三日が、王都の備えになる、と。 ハインツは二十年、国境の関所で判を押してきた男である。百年前に人と魔が結んだ〈境の掟〉を、一字残らず覚えている。魔族は、魔王の名で宣戦布告した国の土しか踏まない。そして掟は、旗と境と掟と、それを守る者を持つものを、国と呼ぶ。 「承知しました。では、この村は本日より独立します」 娘が羊の旗を描き、村人三百が畑の周りに石を並べ、門の板に掟を一条だけ書いた。一、この村の者は、この村を捨てない。 三日目の朝。三万の軍勢が、石の線の手前で止まった。魔王軍の先鋒を率いる魔将は掟を諳んじる堅物で、二十年前、この村長に判が一つ足りないと半日待たされた男だった。旗、境、掟、守る者。魔将は四つを順に検め、告げた。 「掟により、魔王軍はこの国の土を踏まぬ。……通れん」 魔王軍は石の外を歩いて王都へ向かい、十日後、焼かれた隣村の者の列が村の門まで続いた。列の後ろから、王の使者が二度目に来る。今度は、王の御座所をこの村へ移す、と。 「入国審査を始めます。王都の方は、列の最後尾へ」 囮に捨てられた村が、大陸の地図に国として載るまでの、十三日の話。

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カクヨム
カクヨム2026/09/02
  • 現在の作品「辺境の村は囮だ。捨てろ」と王に言われた村長、ブチ切れて魔王軍の進路上で村を独立させました――三日目の朝、三万の魔王軍が素通りした