あらすじ
「側室を迎える。十年も妃をやったのだから、教え方も分かるだろう。側室の王妃教育はお前がやれ」
謁見のあと、陛下はそう仰った。王妃クロティルド、三十二歳、妃十年。頷いた。
「承知しました。では、私の十年をそのまま仕込みます」
王妃教育とは、妃の一日を務めることである。
翌朝四時。側室候補の男爵令嬢ソレーヌの寝室の扉が叩かれる。四時起床、四時半に祈りの間、五時から謁見の名簿三百、六時に使節の献立、七時に陛下の署名の下読み――笑ってお辞儀をするだけだと思っていた妃の一日が、時刻どおりに始まった。
三日目の朝、側室は裸足で庭を横切って逃げた。
妃の日課の札は、掛かる扉を失った。掛かる扉が無いとき、札は王の扉に掛かる。それが先例である。
四日目の朝四時、鐘が鳴った。
謁見の間で使節の名を読み違えて青ざめる陛下。閉まったままの妃の寝室の扉には「教育中」の札。七日目の夜、陛下は林檎を一つ持って、廊下に座っていた。十年前、求婚のときに差し出された品である。
「……お前は、何が好きだ?」
「林檎です。十年前から」
妃の一日を知らなかった王が、妃の一日を一月続けるまでの七日。