あらすじ
「この程度の石で十分だろう。お前に本物は勿体ない」
婚約破棄を告げる男の指で、小さな石が光っていた。ヴィオラにはひと目で分かった。——四年前、自分がこの手で削った石だ。
削った石には、削った者の癖が残る。砥ぎの角度、面の運び、指の力の抜き方。だからヴィオラは、自分が仕上げた石を必ず見分けられる。王都の御用工房で十年、名前を貸されないまま石を削り続けてきた娘の、それがたった一つの財産だった。
けれど、その財産が彼女の首を絞める。四年前に「磨き直せ」と命じられた石は、すべて贋物だった。社交界に散らばった偽物には、一つ残らず彼女の癖が刻まれている。誰かが気づいたとき、罪を着るのは削った者だ。
石は、一度削れば二度と元には戻らない。証拠を消すことも、作ることも、彼女にはできてしまう。
「これは、あなたの仕事ですね」
王家の宝物庫を預かる青年ラウルだけが、彼女の石を彼女のものとして数えた。
自分が加担した嘘を、一つずつ数え直す物語。
※ハッピーエンド確約です。嘘をついた方々には、相応の目に遭っていただきます。