あらすじ
奈良県橿原市。
高校三年生、野球部の久米香月には、誰にも言えない秘密があった。
――自分は、男が好きだ。
その秘密は、ある日突然、本人の意思とは関係なく暴かれる。
アウティング。拡散される噂。向けられる好奇の目。
昨日まで当たり前だった日常が、音を立てて崩れていく。
追い詰められた香月が、それでも隠すことのできなかった想い。
その相手は、クラス副担任の縄手章畝だった。
「先生のことが、好きです」
だが、その告白は恋の始まりではなかった。
母、友人、教師、学校――香月の想いは、周囲の人々が信じてきた「普通」を静かに揺さぶり、それぞれの家族、それぞれの幸せのかたちまでを問い始める。
自分らしく生きるとは、いったい何なのか。
香月自身もまた、他人から与えられた「自分」と、本当の自分との間で揺れていく。
神武東征の記憶が残る橿原の地に、野球部最後の夏が重なる。
恋、家族、友情、そして少年が自分自身を取り戻すまでを描く、長編青春ヒューマンドラマ。
これは、「理解してもらう」ためだけの物語ではない。
ひとりの少年が最後に、「俺は俺だ」と生きるまでの物語。