あらすじ
下宿先の部屋で、うだるような暑さに「もう、あついなあ!」と叫んだ俺の頭に、突然、謎の声が響いた。
「この世から、『あつい』ものを一つだけ消してあげる」
選べるのは、「暑い」「厚い」「熱い」「篤い」の四つ。
冗談半分に「暑い」を消してもらった俺は、涼しくなったことを喜ぶ。だが、ほどなくして世界は極端な寒さに包まれた。慌てて元に戻してもらうと、今度は四十度近い猛暑が襲い、エアコンまで異常をきたす。
次に俺が選んだのは「篤い」。
その直後、入院していた祖父が目を覚ました。
病気は軽くなった。けれど、祖父を見つめる家族の目からは、かつてあった深い情が消えていた。
言葉を一つ消すだけで、何かが変わる。
そして、それを元に戻せば、失ったものがすべて帰ってくるとは限らない。
「次は何を消しますか?」
何度も迫られる選択の果てに、俺が最後に選んだものとは――。
言葉の意味と、人が本当に大切にしているものを巡る、少し不思議で切ない短編。