あらすじ
ドイツのしずかな森に抱かれた屋敷。双子の兄弟、リヒトとルドルフは、互いの境界が曖昧なほど深く結びついて育った。
ある夜、ふと目を覚ましたリヒトは、隣にいるはずの弟の不在に気づく。漏れ出づる灯りに導かれ、覗いた部屋で彼が目にしたのは、華やかなドレスを纏い、陶酔の表情を浮かべるルドルフの姿だった。
弟の真の姿を、若きリヒトは恐怖ゆえに拒絶してしまう。
翌朝、姿を消した弟を探し彷徨うリヒトが辿り着いたのは、中庭の緑深い池だった。
水面に浮かぶのは、あのうつくしいドレスを血で汚し、冷たくなった弟の遺体。リヒトは池に飛び込み、亡骸を抱きしめ絶叫する。そのうつくしさを認める言葉は、もはや届かなかった。
歳月は流れ、19歳になったリヒトは、エリカ大学で虚無的な日々を送っていた。
そこへ現れた日本人留学生、西園寺輝(さいおんじあきら)。
誰からもあいされる太陽のような輝と、あいされても孤独な月のようなリヒトは、相反する存在だった。
一方、輝はリヒトの凍てつくようなうつくしさに惹かれつつも、彼の接し方がわからず、とまどいを覚えていた。
そんな中、輝は友人クルトに誘われて映画を鑑賞する。それは、男性同士の愛を描いたものだった。思わぬ内容に動揺するふたり。後日、クルトからリヒトの「奔放だけれど、誰にも心をひらかない」という不穏な噂を聞かされるが、輝の心には違和感だけが募ってゆく。
雨の日の放課後。忘れ物を取りに戻った薄暗い教室で、リヒトが独り、深い闇に沈んでいた。