あらすじ
前世で写真から傷や皺を消す仕事をしていた僕は、美を信仰する異世界に、左頬へ墨をこぼしたような痣を持つ少年リオとして転生した。
王都の空に浮かぶ〈天鏡宮〉は、人々から悲しみ、劣等感、傷痕といった「醜いもの」を〈影〉として引き取り、二百年の平和をもたらしたという。この世界の魔法が届かない魂を持つためか、僕だけは宮殿を走る無数の罅を見ることができ、その力を買われて修復師となる。
罅を塞ぐたびに宮殿は輝きを増し、僕は必要とされる幸福を知る。けれど同じころ、王都からは何かが少しずつ失われていく。〈調律〉を拒んだ石工の少女ネネは問う。
「あなたは、誰のために世界を綺麗にしているの?」
やがて僕は、罅の正体と、天鏡宮の美しさを支えるものを知る。そして宮殿は、最後の罅を塞ぐ役目とともに、二つの人生で一度も手に入らなかった「痣のない顔」を、僕に差し出してくる。