あらすじ
憂起ちゃんは、物静かな幽霊のお姉さんだ。
あまり喋らない。
感情を表に出さない。
いつも店の片隅にいて、気がつけばいなくなっている。
パンデモニウムのクルーたちも、だいたいそう思っている。
間違ってはいない。
ただし、それは「誰かに見られている時」の憂起ちゃんだ。
誰にも見つからなくなった途端、彼女は壁を抜け、天井を抜け、知らない扉の向こうへ入り、海の底でも死んだ街でも、世界の果てでも勝手に遊び始める。
鍵はいらない。
息もしなくていい。
道がなければ壁を抜ければいい。
帰れなくなったら……まあ、その時に考える。
そして誰にも見つからないまま大冒険を終えた彼女は、何食わぬ顔で店の壁際へ戻ってくる。
「……今日は、特には」
これは、死んだことで誰より自由になったのに、人前ではうまく喋れない幽霊のお姉さんが、誰にも観測されない場所で世界を満喫する物語。
ただし、ときどき。
憂起ちゃん自身にも覚えのない怪奇現象が、彼女の通ったあとに残っている。