あらすじ
全業務をAIに丸投げしていた会社員・如月亮は、AIが出した「異常はありません」の一行を読み飛ばし、四千万円の損害を出して会社を追われた。
帰り道、彼は思う。――もっと賢いAIがあれば、こんなことにはならなかったのに。
そう思ったまま、彼は死んだ。
神が授けたのは《思考補助体・ノア》。
だがノアは、この世界の学習データを一件も持っていなかった。
「その草、たぶん食えます。……推定です」
推定を信じて三時間歩き、川はなく崖があった。
赤い実を二十個食べて、半日転がった。
村を救おうとして、羊を四頭殺した。
全部、前世と同じだった。
嘘をつかれたのではない。前提も、根拠も、ノアは毎回ちゃんと書いていた。
読まなかったのは、俺だ。
悪かったのはAIではない。指示を出さなかった自分だ。
――ならば、育てればいい。
一日三十件の応答上限。会話が伸びれば古い記憶から消える。
ポンコツAIに、薬草の紙を一枚ずつ読み聞かせる日々が始まる。
これは、道具に責任を預けた男が、道具と責任を分け合えるようになるまでの話。