あらすじ

夏が終わり、秋の気配が深まり始めた頃。小学三年生の伊達麦人は、父・将とともに祖母・恵子の暮らす団地を久しぶりに訪れる。 少し理屈っぽい麦人は、何かにつけて「どうして?」と尋ねる。将はそんな息子に、「そういうものだから」と答えることはない。危ないことをしてはいけない理由も、人を傷つけてはいけない理由も、自然を大切にする理由も、一つひとつ丁寧に説明してきた。 ある夕暮れ、麦人は山の中に奇妙な灯りを見つける。ひとつ、またひとつと増えていく小さな灯り。 「恵子さん、あれ何?」 恵子は山を見つめ、静かに呟く。 「……秋が来たんだね」 将もまた、その灯りにただならぬものを感じていた。かつて夢で見た大蛇の神楽舞。そして、若い頃に墓の前で出会った、神々しい着物の女性。説明できない不思議な体験を重ねてきた将には、今回の灯りにも何か意味があるように思えた。 やがて三人は、山中の古い祠と忘れられた墓地へ辿り着く。そこには、秋になると灯る小さな灯りの言い伝えが残されていた。 祭りの夜、山に無数の灯りが浮かび、神楽のような音が響く。 麦人は知る。 不思議なものは、簡単に「良い」「悪い」と決められないこと。怖いから逃げるのでも、珍しいから近づくのでもなく、知らないものには敬意を持って向き合い、必要な距離を取ること。 そして、将がいつも理由を説明してくれた意味にも気づき始める。 それは、いつか麦人自身が考え、自分で判断できる人になるためだった。 秋が深まり、山の灯りは静かに消えていく。 「まーさん。来年も、この灯り見られるかな?」 「分からない」 「またそれ?」 恵子が笑う。 「分からないから、また見に来られるんだよ」 麦人も笑った。 「じゃあ、来年も来よう」 落ち葉の山道を歩く三人。 灯りはもう見えない。 けれど、三人の心には、それぞれ小さな灯りが残っていた。 過去から現在へ。祖母から父へ。父から子へ。 受け継がれていく大切なものを照らす――秋の灯り。 ――『めぐる季節は麦の道 三 秋灯り』。 それは、不思議な灯りを追う物語であり、家族から家族へ、心から心へ受け継がれる「灯り」の物語である。

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小説を読もう2026/09/02
  • 現在の作品めぐる季節は麦の道 三 秋灯り