あらすじ
「無能な写字生は破棄する。私は本物の聖女を娶るのだ」
大聖堂での婚約破棄劇。婚約者フェリクスは、消えかけた金泥の写本を一瞬で蘇らせるという自称聖女ミレーユに乗り換えると宣言した。
地味な金泥師と嗤われてきたアイリスは、しかし静かに一礼する。「では、婚約破棄、謹んでお受けします」――彼女の前世は、日本の古文書修復士。紙も顔料も経年劣化も、贋作を見抜く目も、すべて持ち越して転生した。
ミレーユが『奇跡』で蘇らせたという国宝・戴冠聖典。だがアイリスの目には、それが金ではなく真鍮の粉を卵白で塗っただけの――下地ごと文字を潰す破壊行為だと見抜けていた。半年後には、千年の記憶ごと剥落する。
各地の国宝を静かに破壊していく偽聖女。この国の記憶を、仲間たちが命を注いで守ってきた頁を、虚飾のために失わせはしない。
「喚くつもりはない。泣くつもりもない。わたしの流儀は、指一本汚さず、証拠だけで詰ませる」
三年前から仕込んだ切り札。本物の金で仕上げた、もう一冊の写本。
老写字生ギュンター、そばかすのリゼット、涙もろい竜人の顔料商レオンハルト。地味と見下された工房から、堂々と本物を守れる場所へ。
これは、静かに、そして完璧に。冷静な修復士令嬢が証拠だけで偽聖女を追い詰め、失われかけた記憶を黄金色に呼び戻す、痛快なざまぁ物語。
なお、苦情は受け付けておりません。