あらすじ

「お前を愛することはない。妻の座が欲しくて嫁いだ身だろう」 婚礼の夜、公爵家の寝室で、夫となった人はそう言った。傾いた男爵家を家政と社交の代行で支えてきたエルヴィラ、二十九歳は、泣かなかった。値を付けるのは、泣くより早い。 「承知しました。愛のない務めは、労働です。労働には、対価をいただきます」 翌朝、執務机に置いたのは一枚の料金表。夜会の同伴、金貨二枚。晩餐の女主人役、金貨一枚。客前の微笑み、銀貨五枚。愛妻の演技、時価。夫は鼻で笑って金貨を二枚置き、予約帳のいちばん上に、自分の名を書いた。 ところが晩餐で女主人の腕が知れると、夫の伯母上が正規の料金で茶会の代行を予約し、伯爵夫人が娘の初めての夜会の付き添いを頼み、夫の従弟は独身の晩餐の女主人役を、わざわざ本人の前で申し込む。 「ご予約は、三日先まで埋まっております」 順番なら並べばいい、と従弟は笑った。三日目の雨の夜、屋敷の門の前に、傘も差さずに二刻、公爵が立っていた。自分の妻の予約を取るために。 料金表の最後の一行〈時価〉に、夫が書き入れたものは――。 金で買われた身、と言った夫が、妻の時間を買う側へ回るまでの一部始終。

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小説を読もう2026/09/02
  • 現在の作品「お前を愛することはない」と仰った旦那様へ――では妻の務めは、本日より一件ずつ有料で承ります。三日先まで埋まった予約帳に、旦那様が雨の中で並びました