あらすじ
何百億円もの資産を持ちながら、欲しいものがなくなった男・神谷宗一郎、62歳。
ある夜、一枚の一万円札を眺めながら、彼はふと思う。
「この紙、食えないよな」
金そのものは、食べ物にも、水にも、家にもならない。
それなのに人間は、生きるために金を稼ぎ、金を稼ぐために人生の多くの時間を使っている。
だったら――
生きるためだけに、金を稼がなくてもいい場所を作ったら、人間はどう生きるのか。
宗一郎は、過疎地の土地、空き家、農地、水、エネルギー設備を自らの資産で整え、十人の住人を集める。
家賃はほぼゼロ。
食堂には値段がない。
水を作り、電気を作り、土地や道具を共有する。
しかし、金の問題を減らした先に現れたのは――人間だった。
働く人と、働かない人。
平等と不平等。
共有と所有。
多数決と少数者。
自由と身勝手。
残る人と、出ていく人。
そして宗一郎自身も問い始める。
村は誰のものなのか。
土地は誰のものなのか。
社会は誰のものなのか。
そもそも人間は、本当に何かを「所有」しているのか。
やがて宗一郎は、一つの考えへたどり着く。
持っているのではない。
未来から、預かっている。
土地も。
金も。
会社も。
社会も。
そして、自分の人生さえも。
これは、お金をなくす物語ではない。
資本主義を否定する物語でもない。
文明を捨てて自然へ帰る物語でもない。
文明の便利さを捨てずに、生存だけを金から少し切り離せないか。
一人の金持ちが始めた小さな実験から、「働く」「所有する」「自由に生きる」という当たり前を問い直していく物語。
金を残したって、いつかなくなる。
名前を残したって、いつか忘れられる。
だったら――
未来に、種を蒔けばいい。
『お金のかからない村作り』
――金を残すのではなく、金を必要としない未来を残す――