あらすじ
「式は中止だ。僕は愛人と逃げる。君なら仕事に戻れるだろう」
王都の新しい大橋、その開通式を兼ねた婚礼の日。王室橋梁技師のマレイナ、三十四歳は、花婿の置き手紙を祭壇で受け取った。八年かけて架けた橋の上、参列者の見守る前である。
泣く代わりに、司祭へ訊く。祝福の鐘まで、あと半刻。習わしでは、渡り初めはその日に結ばれた夫婦が行う。式が流れれば、橋は三月先まで開かない。待てるはずがない。花婿は逃げても、橋は逃げない。
「承知しました。式は続けます。花婿だけ、ここで募り直します」
祭壇も司祭も参列者も、そのまま。募りに応じて、鐘つきが手を挙げ、老商人が手を挙げ、若い騎士が手を挙げ――最後に、八年間この橋を隣で支えてきた無口な副技師イサークが、生まれて初めて順番を待たずに、前へ出た。
「あなたは、わたしと、何を架けてくださいますか?」
ところが祝福を前に、式が本当に続いていると知った元花婿が、橋の袂から駆け戻ってくる。冗談だったのだよ、婚約はまだ有効だ、銘板には僕の名も載るはずだ――。
あいにく、置き手紙は放棄の宣言として記帳に綴じてある。そして王室の橋の銘板に刻まれるのは、架けた者の名前だけである。
捨てられた花嫁が、半刻で花婿を選び直し、橋を開くまでの一部始終。