あらすじ
人気小説家として活動する「名無し」は、仕事嫌いで口が悪く、打ち合わせから逃げることもしばしば。
それでも、小説だけは決して適当に書かない。
そんな彼が今回依頼されたのは、若者向けの恋愛小説だった。
会話も構成も悪くない。
けれど、名無しには自分の原稿がどうにも薄っぺらく感じられる。
理由は簡単だった。
今の自分が、恋をしていないから。
そこで名無しが選んだのは、資料を読むことでも恋愛映画を見ることでもない。
「……しゃーねぇ、恋愛するか」
名無しには、恋愛小説を書くときだけ使う特殊な執筆方法がある。
実際に誰かを好きになり、付き合い、嫉妬し、傷つき、その感情を小説へ落とし込むこと。
ただし、その恋には一つだけ、相手の知らない条件があった。
小説を書き終えたら、別れる。
相手を好きになる気持ちだけは本物。
だからこそ余計に質が悪い。
そんな名無しの奇行も脱走癖もすべて把握している女性マネージャー・榊は、今日も淡々と言い放つ。
「倫理的には最低ですが、原稿が上がるなら私の業務上は問題ありません」
恋愛では最低。
仕事からは逃げる。
それでも、書くものだけは妙に誠実。
人気小説家「名無し」が、一冊の小説のために一つの恋を使い切るまでを描く、少しブラックな作家×恋愛コメディ。
『一冊ぶんの恋』