あらすじ
金魚から人の姿へ変化することのできる存在、「金魚姫」。
人外が売買される街で商品として扱われていた少女・鈴蘭は、ある日、小説家の少女・ハルのもとへやってくる。
ハルは感情を大きく表に出すタイプではなく、どこか静かで、他人との距離の取り方も不器用だった。けれど鈴蘭を「買われたもの」として扱うことはせず、金魚姫について調べながら、ひとりの女の子として向き合っていく。
一方、鈴蘭にはハルにどうしても知られたくない秘密があった。
水に全身を浸すと、本来の金魚の姿へ戻ってしまうこと。そして何より、鈴蘭自身がその姿をひどく嫌っていること。
「本当の姿を見られたら、きっと嫌われる」
そう思い込んでいる鈴蘭は、薬浴の時間だけは絶対に自分の姿を見ないでほしいと、ハルに約束させる。
鈴蘭には自由に行ける場所も、できることも多くない。
だからこそハルは、鈴蘭のいる場所へ足を運ぶ。
他愛のない話をしたり、必要なものを用意したり、ときには互いの言葉に腹を立てたり。大きな出来事ではなく、そんな小さな時間を何度も重ねるうちに、二人のあいだには少しずつ「一緒にいるのが当たり前」という感覚が生まれていく。
鈴蘭にとってハルは、自分を値踏みせずにそばにいてくれる、初めての存在になっていく。
そしてハルにとっても鈴蘭は、ただ世話をする相手ではなくなっていく。
誰かのために調べ、心配し、腹を立て、安心する。鈴蘭がいることで、それまで静かだったハルの日常にも少しずつ変化が生まれていく。
けれど、ハルを大切に思うほど、鈴蘭の恐怖も大きくなる。
この人にだけは、本当の自分を知られたくない。
今の自分を受け入れてくれているからこそ、本当の姿を見られた瞬間に、すべてが壊れてしまう気がする。
これは、美しい姿の金魚姫が愛される物語ではない。
自分の本当の姿を嫌い続けてきた鈴蘭と、そんな彼女のそばにいるハル。
限られた場所で始まった二人の暮らしの中で、少しずつ互いがかけがえのない存在になっていく。
そしていつか鈴蘭が、誰にも見せたくなかった本当の姿をハルに知られる日へとつながっていく物語。