あらすじ
東京の広告代理店で八年間、休まず走り続けてきた望月志乃、三十二歳。ある朝、電車のホームで一歩も動けなくなった自分に気づき、志乃は逃げるように故郷・甲府へ戻る。出迎えたのは、少し物忘れが増えた祖母のハツと、蔵の奥で何十年も静かに眠っていた一幅の掛け軸だった。
「疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山」――武田信玄の軍旗として知られるその言葉が記された家宝を、虫干しのために初めて全て広げた夜、志乃は五百年前にこの土地で生きたひとりの女の夢を見る。それは、志乃自身の血に流れる、忘れられていた物語の始まりだった。
疲れ果てた現代のOLと、戦国の世を生きた名もなき女――風のように、林のように、火のように、山のように。二つの時代を貫く「強さ」のかたちを描く、望郷と再生の物語。