あらすじ
王妃の病を癒やし、枯れた麦畑を蘇らせ、王太子の命まで救った聖女アニエス・エルヴァン。
人々は彼女を讃え、王太子は彼女を愛した。
だが、その女は本物のアニエスではなかった。
禁術「名縫い」によって名前も身分も聖女の力も奪われた本物のアニエスは、侯爵邸の地下へ監禁されていた。
偽の聖女が奇跡を起こすたび、治した傷や病は地下のアニエスへ移される。
砕かれる両脚。肺を蝕む病。裂ける皮膚。焼けた背中。胸を貫く傷と毒。
アニエスは助けを呼び、逃げようとし、壁へ何度も自分の名前を刻む。
それでも誰にも見つからないまま、五年が過ぎた。
そして二十一歳の春。
二万八千四百人を救うため、七つの鐘が鳴らされる。
最後の鐘を鳴らせばアニエスが死ぬと知りながら、偽の聖女は自ら鐘を鳴らした。
地下でひとり死んだアニエスを待っていたのは、安らぎではなかった。
王家と教会は真実を隠し、彼女を「国を愛して命を捧げた聖女」に仕立て上げる。
生きている間は誰も助けなかった。
死んだ後は、国中の人間が勝手に彼女の名前へ祈った。
その祈りが、アニエスを悪霊として呼び戻す。
アニエスはまず、自分を苦しめた者たちを殺す。
だが、それでも怒りは消えなかった。
彼女には病も腐敗も止められる。
罪のない人々を救うこともできる。
それでも、もう誰も助けない。
七つの鐘が逆の順番で鳴るたび、ローデン王国から人と土地が失われていく。
王国が行き着く先に、何が残るのか。
聖女だったモノに、どんな末路が待つのか。