あらすじ
灯凪町という、潮の匂いがする海沿いの街がある。その静かな路地の中に、小さな画廊がある。Gallery 余白。永瀬 陽向という若い画家が主だ。眩しい看板もない。大きな窓もない。ただ、夜になると灯りがついた。夜に迷った誰かが、ふと立ち止まる。吸い込まれるように、入ってくる。そういう場所だった。
この三部作は、灯凪町に生きる26人の物語だ。
満たされない夜を生きていた少年が、パンを置いてくれた女の子の隣で変わっていく話。親友の彼氏を好きになってしまった少女が、どちらも本当という夜を越えていく話。推しへの本気の恋心に気づいた女性が、月の下で泣いた夜を大切にしていく話。感じるままに色を置くことを知った画家が、誰かの夜を照らす絵を描き続ける話。言えない言葉を風が知っていた2人が、ついに言葉を動かす話。眠れない夜に物語が生まれることを知った作家が、言葉の人と出会う話。幼い頃からずっと好きだった人に、ようやく届いた全力の愛の話。最後の夜を越えて、朝が来ることを知った女性が、新しい温かさに出会う話。言葉にならない想いを夜に渡し続けてきた男が、また明日と積み重ねて言葉にしていく話。
それぞれの夜を生きてきた人たちが、Gallery 余白という小さな画廊の灯りの下に集まっていく。灯りは、渡るたびに消えない。渡した人の手にも、残る。誰かから誰かへ、小さな灯りが渡り続けていく。
第一部では、灯りを探す。第二部では、灯りを渡す。第三部では、灯りのそばにいる。
静かで、温かくて、言葉にならないものが言葉になっていく。夜にしか見えないものがある。夜にしか聞こえないものがある。夜にしか出会えない人がいる。そして夜は、全部知っている。言葉にならないものも。形にならなかった想いも。精いっぱいだった時間も。全部、夜が受け取っている。
そして朝が来る。ちゃんと、朝が来る。
小さな灯りでも、暗闇には十分なんだ。