あらすじ
大学生の葵と航平は、付き合ってちょうど一年になる平凡なカップル。
週末、航平の強い希望で郊外の遊園地を訪れる。
彼の目的は、園内で一番古い木製ジェットコースター「星降り峠」だった。地元では有名な都市伝説がある。
コース途中の長いトンネルをくぐる瞬間、ほんの数秒だけ「異世界」に繋がるというのだ。
半信半疑の葵だったが、実際に乗ってみると、トンネルに入った途端、車両の揺れも風の音も消え、周囲の景色が暗闇から一変する。
見たこともない星空が頭上に広がり、眼下には光る川が流れ、空気は花の香りで満ちていた。
それは本当に体感五秒ほど。気がつけばトンネルを抜け、日常の景色が戻っている。
二人は呆然としながらも、あの五秒間が本物だったのか確かめるため、もう一度「星降り峠」に乗ることを決意する。
二度目は、目を閉じず、手をつないだまま、トンネルの先をじっくり観察しようと試みる。
再びトンネルへ。
今度ははっきりと見えた。
異世界の入口に立つ「案内人」の姿。彼は微笑みながら、二人にだけ聞こえる声で言う。
「もう一度だけ、来ますか? 次は五秒では帰れませんよ」と。葵と航平は手を取り合ったまま、その問いの答えを出す——。