あらすじ

「セラフィナ・エルネスト。お前との婚約を破棄する」 王城の夜会、王太子アルベルトは数百の視線の中で高らかに告げた。「何も覚えていない愚鈍な女」は王妃にふさわしくない、と。隣に立つ男爵令嬢ミレーユも勝ち誇った笑みで追い打ちをかける。 ——ああ、やっと。 扇の陰で、私はそっと息を吐いた。 私、セラフィナは前世で毒物耐性と調香を極めた薬学研究者。この世界で授かったギフトは『忘却無効』。あらゆる記憶操作を無効化する。 公爵家が私の私室に焚き続けた『忘却の香』——吸えば記憶が溶けていく忌まわしい香料。彼らは私を愚鈍な令嬢に仕立て、罪をかぶせるつもりだった。だが、その香は私にだけは効かない。つまり「どうせ忘れる」と油断して密室で語った悪事のすべてを、私はこの頭に完璧に保管している。 パチン、と扇を閉じる。 「——もう、忘れたふりは終わりですわ」 三年前の雨の夜、密輸の受け渡し。日付も時刻も発言者も、すべて覚えている。焚かれ続けた香ごと、その悪事をそっくりお返しいたしましょう。 愚鈍を演じ、証拠を集め、時を待った薬師令嬢の、痛快なる逆転劇。婚約破棄の当日、すべてを焚き払った先に待つ、澄んだ夜とは——。

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小説を読もう2026/09/01
  • 現在の作品【短編】忘却の香を焚かれ続けた薬師令嬢ですが、記憶を消せない体質だったので全部覚えてます~婚約破棄の当日、公爵家の悪事を焚いた香ごとお返ししますわ~