あらすじ
ルクセンブルクを舞台にした20代30代女性向け国際恋愛の短編小説。
前後編で完結する読み切り作品です。
九月下旬。三週間の休暇を使い、ヨーロッパ西部の小国ルクセンブルクを一人で訪れた三十歳の日本人女性・ナオは、東京で広告会社のアートディレクターへの昇進を打診されていた。欲しかったはずの話なのに、返事を先延ばしにしたまま旅へ来ている。
滞在三日目の夕方、ナオは崖上の旧市街から谷底のパファンタールへ下りるガラス張りのエレベーターに乗る。扉が閉じる寸前、自転車を押したルクセンブルク人男性・マティアスが駆け込んでくる。
わずか三十秒ほどの下降。
けれど翌日も、その翌日も、午後六時二十分になるとなぜか二人は同じエレベーターに乗る。
谷底へ着けば別れていた二人は、いつしかアルゼット川沿いを少しだけ歩き、ベンチに座り、帰る方向が違う交差点まで一緒に行くようになる。
「また明日」と約束したことはない。
それでもナオは、午後六時二十分を待つようになる。
帰国まで、あと九日。