あらすじ
29歳の穂積日和は、ある日突然、異世界へ召喚された。
――ただし、完全なる人違いで。
本来召喚されるはずだったのは、22歳の弟・湊。
勇者として選ばれた弟と間違えられた日和には、特別な魔法も、剣の才能も、加護もなかった。
そのうえ、元の世界へ帰る方法も分からない。
「役に立たない」と王宮から放り出されそうになった日和を引き取ったのは、召喚そのものに反対していた、怖い顔の侯爵エリアスだった。
知らない世界。
読めない文字。
分からない常識。
それでも、お腹は空く。
そして日和には、なぜか料理のことだけは、はっきりと残っていた。
包丁の握り方も。
出汁の取り方も。
誰かに食べてもらう喜びも。
やがて日和は、異世界の片隅で小さな料理屋「宵日和」を開く。
訪れるのは、喧嘩した親子、故郷へ帰れない兵士、大切な人を失って食べることをやめてしまった人――それぞれに事情を抱えた人たち。
料理に、人の悩みを消す魔法なんてない。
それでも、温かいものを食べて、誰かと話して、お腹がいっぱいになれば。
昨日とは少し違う明日を、選べることもある。
そして日和自身にも、誰にも話せない――いいえ、自分ですら思い出せない「召喚される直前の記憶」があった。
これは、勇者になれなかった女性が料理を通して誰かの明日に寄り添いながら、自分自身ももう一度「明日」を選んでいく物語。